ドロシー、彼女は僕がライターとして生み出した最高傑作の1つと言える。それはもう、色んな意味で。そして今日はドロシーのお誕生日だ。ということで早速彼女が誕生して今の姿になるまでの軌跡を語ってみようか。
アルマの設計図の回で、登場させようとしていた兵士(最終的にセイになった人)がドロシーに取って代わられたということを書いたような気がする。このとき、僕らの連想ゲームは「ハッカーと傭兵が揃った、となると次は兵士じゃなくてセックスワーカーだよな」だった。
そして、Kiririnが「そこをロリキャラにしちゃうってのは、どうだ…?」という提案をして、これはもう面白くなってきやがったわけだよ。
その提案を聞いた僕の最初の反応は「ロリの売春婦?それはヤバいでしょ…」だったけど、すぐに「いや、むしろ良い、のか…?」と思い直した。ロリって概念にあんまり詳しくなかった僕にとって、未成年セックスワーカーという響きは余りにもタブーに聞こえた…が、ということはそれって同時に逆張り好きな僕らの制作のモチベーションになるってことでは!?
デヴィッド・ケイジ(*デトロイトビカムヒューマンなどの開発者)的な芸術的にするためのタブー要素追加ではなく、僕らはただ純粋に、まっすぐにそのアイデアの実現を追求してみようと思ったんだ。VA-11 Hall-Aは結局のところ、ごく普通の人達がサイバーパンク社会でどう生きていくかというお話なので、性産業従事者というのはそんな中ではごく当たり前の存在だ。そして他の作品では往々にして人々の大事な給料を頂く役割だったり問題児だったりもするからちょうど良い!
つまりはまあ、僕らの正義を貫くのは今だ!ってことだね。
ただ、そう考えたとき、そして僕のKiririn提案への最初の反応を顧みて気づいたんだけど、ビデオゲーム業界ってなんというか、タマが無いよね?ゲームは真の芸術なんてことはなく、あくまでも娯楽の1つである。しかも低級な方。と世間に思われていて、しかもそれを業界の人達自身でも思い込んでいる…そんなフシがある。映画や小説だと全然問題ない、むしろ「高尚だ!素晴らしい!深い!」と絶賛されるテーマをゲームに適用すると途端に「不謹慎だ!下品だ!ありえない!」と炎上したりしてしまう。
で、未成年セックスワーカーもダメってことはないなと思い返した瞬間、上に書いたような真実に気づき、僕の目を覆っていたウロコもボロボロ落ちた。自分の最初の反応が「ゲームでそんなテーマを扱ったらとんでもないことになる」という考え方から生じたということは、こんな考え方は捨ててしまわないと、ゲーム業界はこれ以上成長できないし、アーティストたちのタマも縮こまったままだ!
激しいオナニー語り、すまない。もう少しだけコスらせてくれ。
更に言うと、性産業というのはゲームはもちろん、ほかのメディアでも語られることはとても少ない。そこで働く人たちはほとんどがどこか壊れた人間として描かれ、いつも絶望の淵まで追い込まれ、使い捨てられていく。
ただ同時に、セックスという行為は特別な重みを持っている。ハッピーエンドにもなり、支配力の表れにもなり、通過儀礼だったりもする。どれも間違いじゃない、でもそれが全てでもない。問題なのは、日常の一コマであるはずのこの要素が、ゲームになると突然おこちゃまレベルでしか表現されないってことだ。
さて、そろそろドロシーの話に戻ろうか。
あ、ちなみにこれまで色んなところで「で、Kiririnが◯◯って言ったんだ」から新たな物語が始まることに気づいた人も多いと思う。でも実際そうなっちゃうんだから仕方ないよね!
話をホントに戻すと、ドロシーの設計図は、アルマのに似た作り方をした。アルマはハッカーだけどギークみたいなテンプレから離れたかったケース、じゃあドロシーは?
コアアイデアの1つは、ドロシーを何かしらの被害者だったりつらい目に遭っているセックスワーカーにはしたくなかったというのがある。ドロシーは自発的に仕事をしてる。楽しんでる。しかもその状況を完全にセルフコントロールしてる。
ここでちょっとおもしろかったのが、テンプレを避けようとした結果、別のテンプレにハマっちゃったんだ。つらい目に遭う風俗嬢というテンプレを避けて元気な明るい女の子にしたところ、アニメに出てくる女児キャラに近くなっちゃったんだよ。
ついでに、上に書いたようなセックス表現への思いに関連して、ドロシーはエロネタ好きであっても、性的なキャラにはしたくなかったというのもある。
ドロシーはとにかく仕事が好きな女の子で、その職務内容が激しく前後に動くことだったというだけ。もし彼女が風俗嬢じゃない、別の仕事をしていても問題ないようなキャラ付けにできたつもりだ。
先生だったとしたら教え子についてのバカ話をしただろうし、看護師だったら世にも汚いクソを始末した話をするかもしれない。もし修道女だったら、日曜学校でガキどもが聞いてくる質問をそのまま繰り返してくれるに違いない。全部似たようなノリで、とにかく明るい会話。想像できるでしょ?
というのを聞いた君たちは、「じゃあなんでわざわざ風俗嬢にして、他の職業にはしなかったの?」と疑問に思うかもしれない。でもそう考えてしまうということは、キャラクターに与えたい深みについての話を忘れているんだよ。大事なのは「性格が同じなら風俗嬢にしなくてもいいじゃん?」という話じゃなく、「風俗嬢という要素を取り除いたら、このキャラクターには何が残る?」ということなんだ。キャラクターの深みというのは、表面的なところを超えてもしっかり機能するキャラクターをいかに作るかに限る。
ここで僕らが「エロネタばっかりだけど性的ではない」ドロシーになるようにがんばった話が関わってくる。ドロシー本人が積極的にヤろうとしてくることはないし、ゲーム内でドロシーとヤりたがっているキャラクターが出てくることもなく、会話中にムラムラしている様子も見せない(ハッキングの仕組みについて聞いたときを除く)。たまにベッドに誘うこともあるけど、これはほとんどジョークや社交辞令だしね。
一発ネタではなく、全力でセックスワーカーについて描くということを追求したかったんだ。その最初のステップとして、彼女をせめて、人間らしくした。(リリスだけど)
締めの言葉に行こう。最初にも書いた通り、僕らはドロシーというキャラクターを生み出せたことを誇りに思う。キャラ作りに関しても非常に大きな経験となった。ドロシー抜きでは、ゲームの成功もなかったんじゃないだろうか。