*ネタバレ注意!ゲームを一度でもクリアしてから読んでください。
諸君、私はクレイジーなキャラクターを書くのが好きだ。大好きだ。中でもすとり〜みんぐチャンはどのシーンも書いていて楽しすぎたキャラクターだ。
今日、8月8日は彼女の誕生日だし、どうしてああなっちゃったのか、説明していこうか。
最初期のプロトタイプへの感想をオンラインアンケートでもらった結果、誕生したキャラクターが2人いる。1人がもちろんすとり〜みんぐチャン、もうひとりは… 今後のお楽しみにしておこうか。
フィードバックの1つに、アイデアが詰め込まれたやつがあって、その中にあったんだ、「生活すべてを実況してる女の子」ってのが。他のアイデア?僕が覚えてると思う?
でもまあ、実況してるってだけだとまだ足りないから、うっとうしいタイプの実況主にしてみるのはどうか?って思った。すとり〜みんぐチャンって子は、ある人が動画コンテンツクリエイターになり、現実世界でも動画に写ってるときの振る舞いをし始め、自身のペルソナが虚構と現実(もしくはパーソナルスペースとそれ以外のスペース)を区別しなくなり、それに世間がリアクションをしてくるとどうなるかというのを表現したキャラクターなんだ。
でも、この小生意気でやかましい少女(?)はなかなか面白い問題を生み出しもした。
「どうやったらそんな人間が誕生するんだ?」
ニコール・チェンに残ったわずかな良識をかなぐり捨ててまで視聴者数を稼がせようと思わせた出来事とは一体なんなのだろうか?単にクレイジーだから?それだけだと全然面白くない。なので、アルマのときみたいに、自分たちが作り出したものであるにも関わらず、どうやったらこんな人間が生まれるのかというのをひたすら自問してみた。
そしてゲーム内の多くの要素と同じく、ヒラメキは僕の個人的経験から昇華されてきたんだ。
僕は14歳のときからなにかしら書き散らかしてきた。その前はただ色々と空想にふけってて、漫画家になりたいとか言ってた。そして「ナイルに死す」や「レ・ミゼラブル」を読んでからというもの、その頃のどのジュブナイル小説にも飽き飽きしていた僕に、読書への情熱が蘇ったと共に、小説って、僕の空想を形にするのにうってつけじゃん?と気づかせてくれたんだ。
ただ、その書き物は基本的には自分のためだけのものだった。ごくたまに誰かに読ませてみようとしても読んでもらえないか(社交辞令で受け取ってくれはしたものの)、からかわれるだけに終わった。
ここで4年ほど早送りしよう。とあるネットカフェから、Ren’Pyで「書いた」「ゲーム」をKiririnに送りつけた。…そしたらなんと、気に入ってくれたって!読んでくれるだけでもすごいのに、気に入ってくれた!
あの日感じた「もっと書きたい」という衝動が今も僕を突き動かしてくれているんだ。
すとり〜みんぐチャンもだいたい似たような感じだね。僕らが見ている彼女のペルソナは、彼女自身がなりたい目標、そして純粋にファンである視聴者や、エロ目的で見ている視聴者たちが形作った理想像というわけ。彼女が四六時中生放送してるのは、ずっとなりたかった誰かとして振る舞うこと、本来なら決してやらないようなことをするために肩を押してもらうためであり、モニターの向こうで大勢が応援してくれているのを知っているからリスクを冒せるということなんだ。
他にもすとり〜みんぐチャンのおもしろいところと言えば… 彼女のスプライト画像はコード的に見るとかなり無茶をしてることかな。
VA-11 Hall-Aのスプライトはだいたい、ベース、表情、まばたきアニメ、リップアニメの4つの構成要素でできてる。でもすとり〜みんぐチャンには更に幾つか追加される。
- 帽子についているウェブカメラはまばたき同様に一定間隔で変化する
- 登場と同時にジュークボックス機能を無効化+上書きしてテーマソングを再生する。これがどんだけ僕らの頭痛の元になったか… 想像できないだろうね
- 上と同時に、ランダムな弾幕コメントを流すためのオブジェクトを生成する
せっかくだから弾幕コメント機能がどうなってるか説明しようか。
弾幕コメントはそのシーンが対応するであろうリアクションの種類に分類される。「賛成!」とか「反対!」とか「逝ってヨシ!」みたいなそんなの。で、その種類ごとに「コントローラー」と「ワードオブジェクト」のオブジェクトたちが2つ生成される。
弾幕が1つ生成されるとき、同時に「コントローラー」が生まれ、ランダムな数の「ワードオブジェクト」を生成してから消える。ワードオブジェクトたちはそれぞれランダムなフォントサイズ、流れるスピード、位置、そして文章を持っていて、画面を横切り、そして消えていく。
今思い返せば、リアクションごとにオブジェクトを生成したほうが絶対良かったんだろうけど…
以前の記事でも書いたように、僕らには時間(と経験)が圧倒的に足りなかったんだ。
唯一の例外としてどんな状況でも流れるコメントというのがある。この「コントローラー」はすとり〜みんぐチャンがいなくなるまで消されず、更にドロシーとの特定の絡みのときはテキストが変化するという追加条件を持っている。
ちなみにコメントごとにフォントサイズを変えるには、それぞれ別のフォントタイプとしてリソースを割く必要があった。ってのも、GameMakerはほんとに融通が利かないから、フォントのリサイズなんて簡単なこともできないんですよマジで。
あとすとり〜みんぐチャンに関して大事な点と言えば、彼女のシナリオは群を抜いて書き直しが少なかった。実際、彼女の登場シーンは自分でもびっくりするくらい速く書き終わったし、ちょっとした編集以外にはほぼいじらなかったことを覚えてるよ。
そろそろ締めに入ろうかな。
まずは、彼女がカメラに写ってないとき、スポットライトに照らされてないときの「リアル」のニコール・チェンがどんな女性なのか、というのをいつか書いてみたいという思いは強くあるということ。
そして彼女の心理について考えてたときに思った、「バリデーション*」って怖いな、と。
*訳注:「バリデーション」とは、自分の気持ちや考えていることを肯定してくれる、理解してもらえるような感覚を指す言葉。
例を挙げると…
僕の父親は、以前音楽教師だった。で、あるとき仕事がしんどい!もっと楽にお金を稼ぎたい!と思ってしまった。そして自分のレコーディングスタジオを立ち上げようとも思ったけど… 20年も教師生活を続けていると、辞めるタイミングというのがわからなかったらしい。
そんなある日、授業中に生徒に「オマエ、ウザいんだよ!出てってくんね?」とか言われたわけ。まあ、そいつは学校でも有名なクソチビなクソガキだったらしいけど、それが父親には職を辞するための天の声に聞こえたらしい。そのクソガキに対して怒りも覚えないまま、「確かに!俺はこんなとこで何してるんだ?」ってなっちゃった。
その顛末はさておき、これはめちゃめちゃ怖ええなと思ったね。だって、実際に意図してもいない、テキトーな発言が誰かの退職の後押しをしちゃえるわけだよ?ネットでタイミング良く、内容もちょうど良いコメントを見てしまったために誰かがずっと内心考えていた危険なことを実行に移しちゃうなんてことも全然ありえる。
言葉ってのは、強いけど恐ろしい。癒やしもできるけど、殺しもできる。みんな、言葉は注意深く使おうね。そして、注意深く受け取ってほしい。