*ネタバレ注意!ゲームを一度でもクリアしてから読んでください。
プレイヤーのみんなのアルマへの反応は、なかなかおもしろかったね。アルマがベストキャラクターだったという人はあまりいなかったけど、嫌い!とまでいう人はいなくて、どちらかと言うと彼女以外のキャラが好きすぎた、という感じだった。アルマはメインキャラに近いのに、注目度で言えばすとり〜みんぐチャンの方が上だったように感じさえした。
というわけで、彼女の誕生日に僕らができることと言えば、アルマにスポットライトを当てることくらいってわけ。
アルマがどのようにして今のアルマになってきたかを理解するには、はるか昔の2014年のサイバーパンクゲーム開発ジャムまで遡る必要がある(うーん、年取ったな…)。
Kiririnがサイバーパンクバーのアイデアを生み出したあと、でもまだダウンタウンにあるというのは決まってなかった頃、僕の頭の中では戦争が大きなビジネスになっている世界が構築されていた(MGS4の世界に似てるっちゃあ似てる)。この世界はラルフ・ウルフやサム・シープドッグのカートゥーンアニメみたいに、兵士はタイムカードを押す必要があるサラリーマンであり、その日のシフトが終わったらきちんと殺戮をやめて、どの所属の人々でも安心できる「中立地帯」でお休みをする。
そんな中立地帯の一つにバーがある。ここに来るのは明るい兵士、傭兵、あと会計士。明るい兵士は結果的にセイになり、傭兵はちょっと変更が加わってジェイミーになり、会計士がアルマになった。
なぜ会計士なのか?兵站コスト、グレネードやボディアーマーひとつの値段の高さに絶望するキャラクターというのは面白そうだなと思って。ということもあり、アルマの最初のスプライトでは制服っぽいものを着ていた。でもKiririnがニットセーターを着せて世界に平和が訪れたというわけ。
その後、ダウンタウンバーのアイデアが生まれた。続いて明るい娼婦、礼儀正しい傭兵とハッカーも生まれた。ハッカーという存在をどう面白くできるか?それなら簡単。よくあるステレオタイプであるオタク、ギーク、ドジっ子、引きこもり、変人以外のなにかにすれば良いんだ。ということでおっぱいハッカーならぬクリスマスケーキハッカーが生まれましたとさ。
念のため説明しておくけど、「クリスマスケーキ」はある年齢以上の独身女性を意味する。なぜか?「25を超えたら誰も欲しがらないから」(この上手すぎる説明を聞くたびに今でも笑っちゃう)。更にここに年齢相応より幼く振る舞う女性という意味合いも追加されがちかも。早く結婚相手を見つけて落ち着いてくれたらねぇ、という常なるプレッシャーを抱えているというのは言うまでもないよね。
プロトタイプ版のアルマシナリオは、ほかの誰よりも確実に執筆が遅れていた。結局ここはゲームジャムの最後の最後に書いたので、ドロシーやジェイミーシナリオよりもだいぶツギハギ感が強くなってしまった。でも、アルマというキャラクターを構成する要素の種みたいなものは既にそこにあったんだ。
元々僕はアルマに魅力を感じていて、執着もしていた。これは魅力的だということとは別に、「あまり積極的ではないラテン系女性」というキャラクターを世に出すチャンスを無駄にしたくなかったらというのが大きい。
アルマ本人に話を戻すと、彼女の性格のコアとなる部分は、「家族からの定住プレッシャー」に尽きる。
これに関してはプロトタイプでも既にアルマ本人が少し語っているけど、ラテン系って、僕の個人的経験も含めてかなり家族中心なところがあるので、そこを深堀りしたくなったんだよね。
『モダン・ファミリー』に出てくるグローリアみたいなアメリカドラマの人気者を見ると、家族中心という要素はステレオタイプだと感じるかもしれないけど、中南米のほとんどの作品でこの傾向は見られるので、どっちかというと文化的なものだと思う。だから、そういうテンプレは避けたいなと思ったんだ。
次のコアは、もちろん結婚プレッシャーだ。でも、そこも普通にはしたくなかった。じゃあ、例えばこのプレッシャーが家族ではなく自分によるものだとしたら?アルマは惚れやすくて、身を固めようと思っているのに、失敗続き。男性と関係を持つと、相手をよく知らないまま結婚相手として突き進んでしまう、と。
じゃあ、この問題の解決にならない他の要素としては何があるだろうか?もしかすると、アルマは結婚に関する色々な問題を目にしてきていて、それが姉たちとのエピソードの元になったのかもしれない。そういうところが結婚プレッシャー問題が解決しない原因の一つでもある。例えば、彼女は自分のパートナーと家族を比べると、家族を優先してしまう。ただ、家族の全員と仲がいいというわけではないし、家族のやることだから見過ごすなんてこともなかったりする。
ちょっとしたトリビアとして、あのアルマの家族エピソードの一部は、僕の実体験とちょっとだけ関わっているんだ。というか、イベントの幾つかはまるでそのままだったりする。だから、アルマのセリフは僕や家族が体験してきたあれこれが散りばめられてるんだ。
結果的に、僕の家族問題に関するイライラを吐き出すのに、アルマがだいぶ手助けしてくれたとも言えるね。僕におけるアルマという存在は、アルマに対するジルみたいな感じだった。伝わるかな?
アルマのキャラクターが確立していくにつれ、ジルを上手い感じに引き立ててくれるキャラになってくれた。アルマはかなりオープンだけど、ジルはその真逆。アルマは気さくで思いやりがあるのに、ジルは皮肉屋でカリカリしている。アルマはお金に困っていないけど、ジルは毎回家賃を払うのに困ってる。アルマは家族第一だけど、ジルは一人が好き。狙ったわけじゃなかったけど、これを有効活用しないのは余りにももったいないと思った。
というわけで、二人のストーリー構築は並行して進めることになった。ジルの話を何かしら作ったあとは、アルマが正反対になるように調整するような形で。この二人は可能な限り正反対にしようとしながらも、お互いの目を見て話せるくらい似た人間性にしたかったんだ。この展開は、二人が店員と客の立場を入れ替える例のシーンを基準点として作った。あの瞬間のために全てが上手く収まるようにしたかったんだ。
あそこは… 我ながら一番よくできたと自負できるシーンだね。デイナの頭がヘルメットから抜けなくなるシーンと同じくらいに。
また、アルマは「良いバランス」を体現したキャラクターでもあった。美人だけど頭空っぽではない。ハッカーだけどオタクには見えない。ラテン系だけどステレオタイプではない、その他諸々。
長くなってきたから、あと2点紹介して終わるとするかな。
1つ目、アルマは個人的な執着は抜きにして、見た目も性格も一番僕好みのキャラクターだということは改めて言っておこう。あ、でも、これは鳥山求氏のライトニング様に対するものではなく、ヨコオタロウ氏の2Bへの思いに近いからね。
2つ目、ジルの孤独さとは違う形の孤独さをアルマに表現してもらおうとしたんだ。アルマはいつも誰かに囲まれているけど、それはパートナーや家族の誰かであり、それ以外の友人と言える存在がいない。そういうこともあって、アルマがジルに急速に懐いていく。これはゲーム内では特に説明してないから、上手くできたかどうか気になってるところではあるね。